懐かしい文章 ≪芝居小屋 聞きかじりあれこれ≫2020年05月06日

今、人生最大に時間があるのでファイルなど整理していたら、昔書いた文章がでてきました。20年以上前、横浜に歌舞伎のできる劇場をつくろうという市民運動をしていたころ、冊子に載せた文章です。懐かしくてコラムに載せてしまいました。若かったなあ、ちょっと古い…でも気持ちはかわりません。

 

≪芝居小屋 聞きかじりあれこれ≫

皆さん、普段こんな言葉、聞いたことありませんか?

 「仲間うちからつんぼ桟敷にされてさ、気分は奈落の底だよ。」

 「あいつは全部 楽屋裏を知ってるね。きっとさくらだよ!」

 「あんな話にのせられるなんてとんだ狂言だね。」

 「テレビ番組の『演歌の花道』で君の十八番(おはこ)をやってたよ」

なんて、思いつくままに書いてみましたが、自分では使ったことがなくても年配の方の話やドラマなどで一度や二度は聞いたことがあると思います。これってみんな劇場用語がルーツなんですよね。私たちは知らず知らず会話の中で慣用句として結構使っているんです。ご存じのこととは思いますが、つんぼ桟敷、奈落、楽屋、さくら、花道など、江戸時代の芝居小屋の構造上の名称です。

 

つんぼ桟敷は舞台から見てずずっと奥の音響効果の悪い、セリフの聞こえにくい席のこと、奈落は舞台の下になる暗い場所、楽屋は役者が仕度をするところで内々だけに見せる場所、花道は登場人物が特にクローズアップされる一番目立つ場所です。意外に知られていないのは、桜という言葉が芝居小屋の一番安い席からきていること。昔は2階の両サイドの席が舞台の幕の中まで続いていたそうで、長方形の舞台を真横から見る状態で、しかもどんなにいい芝居でも余韻を楽しむなんてことはできない、それで一番安かったそうです。ただしその席は幕がしまってからの役者が素になった状態や裏方がうろうろ片付けている姿までみられるので芝居好きにはたまらない席だったようです。その席のことを本来『吉野』と呼んでいましたが、そこは粋な江戸っ子、吉野といえばさくらということでその席を通称『さくら』といっていたとか。だから内々を知っていながら客を装う人のことを「あいつはさくらだよ!」なんていうんですね。

 

狂言や十八番(おはこ)は劇場というより芝居そのものの言葉ですが、こんな風に考えてみると、今私たちが使っている日本語の中には芝居小屋文化が根付いているわけです。

そうなんです!言葉の中に文化、芸能が生きている。だから日本語を生きた言葉にするためにも日本の芝居ができる劇場が近くに欲しいんです。なーんてこじつけ、でも本気で考えている芝居好きの私です。

                                               坂東以津緒

                                  (横浜芸術劇場建設推進の会 冊子より) 

 

今は唯々、1日も早くいつでも芝居の見られる世の中に戻ってほしいと願うばかりです。

 

 

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