長唄「楠公」を踊ります

今年は満開の桜を青空の下で愛でることなく、雨のお花見となりました。

少し残念な気もしますが、雨降りに咲く桜の色も一興。そしてこの時期の雨もまた菜種梅雨などと風雅な呼び方をする日本文化、とても素敵だと思います。

さて このたびは四月二十二日(土)国立劇場大劇場《扇の会》で長唄「楠公」を踊ります

「楠公」とは楠正成のこと、勝ち目のない戦に忠義のために命を懸けた武将。前段が戦を前に息子正行との桜井の別れ、後段は湊川の合戦での正成最期の場面でかなりハードな立ちまわりとなります。これを一人で演じるという難易度の高い演目です。

「楠公」は今まで憧れの演目ではありましたが、自分の任ではないように思い遠巻きに指をくわえておりました。今の時代に忠義に命をかけた武将の生きざまを表現することが私にできるだろうかと…。しかし師匠からのすすめもあり、また身体と心情の両方必要な踊りを踊るには年齢的にも今がラストチャンスなのではないかと思い立ち、踊らせていただくことに致しました。忠義を貫いた心情、そして子別れが私にどこまで表現できるかわかりませんが、「楠公」を運命に立ち向かう信念の人としてとらえ、演じてみようと思います。

今年になって、子がいの師匠でもある母の命の際に直面しながらの日常が続き、コラムの更新も怠っておりました。「楠公」の様なシリアスなお役は久々ですが、こんな状況でこの演目と向き合うのも私にとってきっと意味があることと感じています。心して精一杯の力で演じたいと思います。

平成29年4月11日

坂東以津緒

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