劇場あれこれ

私が生まれ育った横浜には歌舞伎など和物が充分に上演できる劇場がありません。従って「高校生のための歌舞伎教室」なども斜めの横丁の路地のような花道で、当然、せり(奈落から舞台上に上がる機能)、すっぽん(花道でのせり)などはいうに及ばず何もないところでの公演となります。子供の頃から歌舞伎が好きで中学生ぐらいから学校の帰りに歌舞伎座通いしていた私としましてはこんなことで歌舞伎を初めて体験する高校生達が歌舞伎本来の醍醐味を充分味わえるのだろうかと悲しい気持ちになっておりました。

平成13年より横浜に歌舞伎など和物が充分にできる劇場をたてる運動「横浜芸術劇場建設推進の会」を立上げる機会をえて微力ながらお手伝いさせていただいております。

「横浜芸術劇場建設推進の会」の活動を始めてから劇場に関してその時々の自分の使い勝手のみでなく、どんな風に使われているのかとか、稼働率とかに興味を持つようになりました。

たまたまですが、昨年は9月に4ヶ所の地方の劇場に行くチャンスがありました。9月7日に、「女師匠たちの坂東流」というテーマのお話と踊りを見に京都芸術造形大学の中にある京都芸術劇場春秋座へ、そして9月後半には文化庁による「本物の舞台芸術体験事業の公演でゆめホール知床、会津風雅堂、東美濃ふれあいセンターへ行かせていただきました。まず春秋座は大学内のホールということで、もっと殺風景な(もちろん立派な劇場ということは聞き及んでいましたが)或いは西洋風なものを想像していました。が、行ってみると通しの花道あり、二階席には赤い提灯が並び、桟敷席を思わせるようなゆったりとした両サイドの座席など、和の雰囲気でとても落ち着いた素敵な劇場でした。機能面でも宙乗りもできるとのことでいろいろな催し物に使われている様子、こんな舞台が大学の中につくられたことにちょっと感動でした。大学の場所も白川の自然に囲まれた風情あるところで、おまけに私の席のすぐ近くにどこかの花街の芸妓さんのお座敷着での姿をみかけ、さすが京都とうれしくなりました。

ゆめホール知床はとにかく北海道の広い土地をふんだんに使って建てられ、いろいろなお部屋が完備された立派な劇場です。でも劇場のまわりに人は少なく、車か、バスの時間を配慮しなければお客様がこないのではと思われるような環境、(もちろんそのような環境だからこそ文化庁の公演で行く意味があるのですが)そのためかホール独自で会員を募り催し物の案内を地域の方に積極的に伝えるという方法をとって運営されていました。会津風雅堂は舞台も大きく宝塚の公演もかかるような劇場。そして東美濃ふれあいセンターは地歌舞伎が盛んな土地らしく小さいながら通しの花道あり、ロビーには木製の隈取のオブジェ、現市川団十郎さんの書による歌舞伎ホールという看板あり、さすが土地柄と感心しました。でも照明さん大道具さん情報では、機能面で整っていないとのこと、考えてみれば当然です。地歌舞伎にはあまり凝った道具立ては必要ないですから。

さて私たちの横浜にはどんな劇場がふさわしいのでしょう。確かに和物にふさわしい劇場が欲しくてこの運動を始めた訳ですが、劇場を造ることは和の文化をこれからの世代に伝えるための手段として必要なのであり、その劇場の中身を充実させていくのが本来の私たち実演家としての仕事です。9月の劇場ウオッチングでは、私なりに責任をひしひしと感じながら帰ってきました。

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